2026年4月1日に月に向けて打ち上げられたアルテミスII計画のORION宇宙船には電波では難しい高速通信を実現するレーザー通信が用いられています。弊社の製品とは直接関係ありませんが、レーザー通信に携わるものとして一つの記念的出来事です。
使用されている波長は1550nm近辺、つまり長距離の光ファイバーの通信で用いられているC bandと同じ波長です。ORIONから地球へは260Mbps。地球からORIONへは20Mbpsの帯域が確保されています。ボイジャーが160bpsであったことを考えると大変な進歩です。
4Kの動画を複数遅れる大容量が注目されていますが、片方向の送信だけに着目すると電波を利用するよりも宇宙船側の設備が小型であるのも大きな利点です。方向制御機構は必要ですが電波にくらべて発振器の消費電力は少なく。また大きなアンテナでなくてもかまいません。
三ケ所設置されています。
一番の障害は天候による影響でしょう。地球上の複数の場所から受光をしていますが、地球の自転もあり常に複数の個所から受信できる位置関係にあるとは限りません。無線もKa-band(26GHz)ですと機構の影響は多少受けます。管制用にはS-band(2.1GHz)が使用されています。
光ファイバーによる通信と同様に伝送マージンを計算してみましょう。地球から月までの平均距離(約384,400km)想定減衰量は300bB。光ファイバーの様に光を閉じ込めることができませんので拡散する分も減衰しますのでトータル306dB。
送信側は500mW(27dBm)で口径が10cm(105dBi)。
受信側素子はフォトンカウンティングによって-73.8dBmの最小受信電力。口径40cmを四台(116dBi)組み合わせたものと1mの望遠鏡で受光。
発光系見積もり:レーザー出力27dBm +10cm望遠鏡利得105.0dBi+フィルタ損失-3.0dBm = 128.0dBm
受光系見積もり:40cm望遠鏡116dBi+フィルタ損失-4.0dBm = 112dBm
j受光電力:128-306+112 = -66.0dBm
マージン:-66+73.8 = 7.8dB
光ファイバーによる伝送では3dBもマージンがあれば十分ですが、不安定な空間なのでけっこう余裕が無い印象です。
観測情報から位置を予測計算して望遠鏡を向ける。そしてビーコンレーザーを受光してさらに未来位置を予測して方向制御を行う。光でも往復で2.5秒かかりますので、未来位置予測が重要ですね。
光ファイバーでの短距離伝送では信号の有無を判断しクロック再生用のcodingがされたNRZ方式が従来は良く使われていますがアルテミス計画で使用されてるのはパルスのタイミングに意味を持たせたパルス位置変調(PPM)です。定められたタイムスロットの中いつ光を検出したか時間的な「位置」を判別して伝送されるビット列を再現します。例えば32のタイムスロット分割の32-PPMでは一回のシーケンスあたり5bitの情報を変調できます。
この方式はレーザーの発光時間を短くすることができるので、高出力を低消費電力で実装できる利点があります。
これにエラー訂正を組み合わせたのがSCPPMです。
宇宙船から地球へはSCPPMを使用し、地球から宇宙船へは32-PPMを採用しています。
H.2654K60Pの映像ストリームで20Mbps。260Mbpsの全帯域に対して余裕がありますので複数のストリームが送られているでしょう。
自由空間通信(FSO)は地上でも色々試みられています。CANONが1993年に785nmを使用するCANOBEAMを発売し、2003年には1Gbpsを最大500mの距離まで改良しました。しかし、天候の影響を受けますし設置場所が揺れても通信が安定しません。実際にイベント使用したこともあり仮設で揺れない設置を苦労しました。60GHzのミリ波電波を利用したシステムでもほぼ同等の帯域と距離が確保できますし天候の影響も受けにくいことから2026年時点ではこちらの方が同様の用途では広く利用されています。
実験としては国内でも10km程度の距離も報告されており。海外では100Gbps以上を100km以上の距離の報告もあります。実用としては秘匿性の高さから防衛産業での適用が進展すると思われます。
天候の影響を受けない宇宙空間では、starlinkの低軌道衛星間の中継で実用化されています。電波に比較すると高密度で広帯域を確保するのに有利です。100ZRと全く同じ1550nm近傍を使用しコヒーレントで100Gbps確保できるとされています。多段中継を行う網としても25Gbps確保できる模様です。
高出力レーザーチップを弊社では自社開発しており、それをパッケージした光トランシーバーとして日本国内では販売を行っていますがレーザー部品としての販売も海外では行っています。その用途には衛星間の空間通信やLiADRのようなセンサー用にも利用されています。
https://www.nasa.gov/technology/space-comms/o2o/